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i「技術法務」は筆者が創り出した造語です。後の章でも触れますが,筆者が2004年に執筆した「知的資本経営と技術法務の潮流」(知財管理誌)という論文で,この言葉を初めて使いました。当時からこの言葉を身内で使っていたという事実もなく,そのときに「技術法務」という言葉を採用した理由については記憶がさだかではありません。ただ,今にして思えば,20年前から漠とした形で存在していた「技術法務」というコンセプトを20年間追究し続けた日々の,最初の道標になったことは間違いありません。20年前はいわゆるブランド先行型で,「技術法務」というラベルは創り出したものの,それがどのような内実を有するものなのか,それが社会的に見て,どのようなインパクトを持ちうるのか,正直言って分かりませんでした。道なき土地を月の明かりと方向だけを頼りに歩いているような状態です。ただ,この方向が正しいという確信だけはあったので,仲間を集めることにしました。「みんなでこの方向に歩んで行けば,いつか必ず川に巡り会える。そして,その川はやがて大河になる。」「技術法務」とは,一言で言うと,知財戦略と契約実務のボーダレスな融合で,特に技術系のスタートアップ企業(ディープテック・スタートアップ)にとっては大変有効な手法として認知され始めています。より構造的に説明してみましょう。ディープテック・スタートアップが一定の企業価値(バリュエーション)を実現するためには,特許を含めた知的財産権という形で自社の技術を表現する必要があります。なぜならば,それがバリュエーションを決める投資家や市場の要求だからです。したがって,その段階では,ディープテック・スタートアップの技術と事業計画をヒアリングし,どの技術をどのようにして知財化するのか(あるいはあえてしない=ブラックボックス化するのか)という技術と知財の見識に基づいたアドバイスが必要となります。そうこうしているうちに,行政用語では「事業会社」と呼ばれている,より大きな企業から共同開発等に向けて声がかかるのです(=オープンイノベーション)。この段階でも,スタートアップの企業価値を損なわないように進めなければなりません。重要なことはビジネスの自由度を確保することで,例えば,新たに生まれた知財は誰に帰属しスタートアップはこれを自由に実施・実は し が き

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