判相1
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8 放 棄50)我妻=立石・コンメンタール親族法・相続法371頁,山中康雄〔相続回復請求権〕家族法大系Ⅵ40頁,中川=泉・相続法〔第4版〕65頁,我妻=唄・判例コンメンタールⅧ相続法20頁など51)新・判例コンメンタール民法14巻7頁〔伊藤昌司〕52)鈴木禄弥〔相続回復請求権の放棄〕家族法判例百選〔新版〕204頁,深谷・現代家族法〔第4版〕269頁126 第1章 総  則 相続回復請求権の放棄は許されるか。旧法下の大審院判例は,明治民法が家督相続人の資格・順位等を法定し,さらに直系卑属に対しては,相続放棄を禁止した(明治民1020条)こととの均衡から,相続回復請求権の放棄は許されないと判示した【124】。しかし,家督相続制度を廃止し,遺産相続のみしか認めない現行民法の下で,なおこの判例を存続させる必要はない。相続開始後の相続放棄が自由である以上,表見相続人による遺産の占有・支配を回復する相続回復請求権を放棄することは当然許されてよい。したがって相続開始後,自由な意思をもって相続回復請求権を放棄することが可能である。 相続開始前に,あらかじめ放棄することができるかについては,学説上争いがある。学説の多数は,相続回復請求権は財産的権利であるとして,相続開始前の放棄も可能であるとするが,家庭裁判所の許可によってのみ遺留分の相続開始前の放棄を認める民法1049条の規定との抵触を避けるべく,この場合でも遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)は失われないとする。50)これに対し,相続開始前に相続権の侵害が生じ,相続回復請求権が発生しているとは考え難いこと,51)あるいは相続開始前の相続放棄が認められていないこととの均衡などを理由に相続開始前の放棄を否定する説もある。52)後説を支持する。 以上によれば,相続回復請求権が民法884条の消滅時効にかかる前においても,相続権の帰属が争われている法律関係に関して,取得時効や債権の消滅時効は(相続回復請求の相手方の善意・悪意等を問わず)成立し得るものと解するのが相当というべきである。

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