補訂版 戸籍の窓口IV 婚姻・離婚・婚氏続称・親権(管理権)・未成年後見
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◆1 婚 姻 深刻な表情の相談者がA君の前に座った。相談者 「私の妹が結婚したいと言っているのですが,とても心配なんです」担当者A 「はい……」相談者 「実は私の妹は重い知的障害があって,ある施設に入っていますが,ある方と結婚したいと言っているんです。年頃の妹の気持ちはわかるのですが,妹が本当に結婚の意味が分かって結婚したいと言っているのか心配なんです」担当者A 「妹さんはおいくつですか?」相談者 「23歳です」担当者A 「妹さんには成年後見人と呼ばれる方が選任されているのでしょうか」相談者 「はい,司法書士の○○先生が後見人となって,妹の財産管理などのお世話をしてくださっています。妹と私は2人姉妹ですが,両親を早くに亡くして,両親の残してくれた遺産をもらったものですから,妹にも相当額の財産があります。結婚したいと言っている人は,その財産が目的なのかとさえ思ってしまう時があるんです」担当者A 「後見人の方は何とおっしゃっていますか?」相談者 「はい,妹の結婚の意思はとても固くて,もう少し考えるように言っても,ずっと『結婚をしたい』と繰り返しているようです。もちろん私が言っても聞いてくれません」担当者A 「ところで,妹さんは署名などはできますか?」相談者 「はい,なんとか署名だけはできます。でもそれが結婚の意味がわかっての署名かどうかはわかりません。妹が不幸な人生を送ることにはならないか,心配で,心配で……。それでご相談ですが,妹の婚姻届があったら窓口でいったんは止めてもらって,私と成年後見人の方にご連絡いただけないでしょうか」担当者A 「(心の声)……深刻だなぁ。どう答えたらいいのだろう……」 相談者は,たった一人の妹を心から心配しています。もしあなたが相談者の立場であったなら,このように戸籍の窓口を訪れて,愛する者が不幸な結果を招かないように,何か手立てがないかを必死で相談するかもしれません。 戸籍の窓口では,しばしばこのようなことがあります。そのとき私たち窓口担当者は,258  窓口の「どうしたらいいの?」事例集─事例1 成年被後見人の婚姻─⑴ 成立要件 ① 婚姻の意思

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